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大阪地方裁判所 平成4年(ワ)1284号 判決 1995年6月22日

原告

小枝弘明

ほか二名

被告

尾﨑将治

ほか一名

主文

一  被告らは原告小枝弘明に対し、連帯して金一億二二四六万七二九七円及び内金一億一五四六万七二九七円に対する平成二年九月一七日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは原告小枝幹寛に対し、連帯して金二三二万五〇〇〇円及び内金二一二万五〇〇〇円に対する平成二年九月一七日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告らは原告小枝豊子に対し、連帯して金三四六万七一〇〇円及び内金三一六万七一〇〇円に対する平成二年九月一七日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

五  訴訟費用は、これを一〇分し、その三を原告らの、その余を被告らの負担とする。

六  この判決は、第一ないし第三項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告らは原告小枝弘明に対し、連帯して、金一億九三八九万三九六九円及び内金一億八三八九万三九六九円に対する平成二年九月一七日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは原告小枝幹寛に対し、連帯して、金五五〇万円及び内金五〇〇万円に対する平成二年九月一七日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告らは原告小枝豊子に対し、連帯して、金六五六万五九九六円及び内金六〇六万五九九六円に対する平成二年九月一七日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の慨要

一  本件は、走行中の普通乗用自動車が道路から転落した事故により負傷した同乗者とその両親が、右車両の運転者に対して民法七〇九条に基づき、運行供用者に対して自賠法三条に基づき、損害賠償を請求(原告弘明、同豊子については内金請求)した事案である。

二  争いのない事実等(証拠摘示のない事実は争いのない事実である。)及びこれに基づく判断

1  本件事故の発生

発生日時 平成二年九月一七日午前五時頃

発生場所 奈良市法蓮町一七〇二番地先

加害車両 普通乗用自動車(奈良五八て八四九五)(被告車両)

運転者被告尾﨑将治(以下「被告将治」という)

態様 被告将治は、被告車両に原告小枝弘明(以下「原告弘明」という)を同乗させ、県道奈良加茂線を奈良阪町方面から内侍原町方面へ進行中、対向車線を横断し、進行方向右側歩道を乗り越え、そのまま県道から転落し、電柱に激突した。

2  原告弘明の受傷

原告弘明は、右前頭部硬膜外血腫、右前頭骨骨折、右前頭蓋底骨折、右肺挫傷、右第二・第三肋骨骨折の傷害を負つた(甲三)。

3  被告らの責任

被告将治は、最高速度時速四〇キロメートルの道路上を、時速八〇ないし九〇キロメートルで走行した過失により、本件事故を引き起こした(乙一の1ないし6)。

被告有限会社テイオー・エンタープライズ(以下「被告会社」という)は、本件事故当時、被告車両を所有し、その運行の用に供していた。

したがつて、被告将治は民法七〇九条に基づき、被告会社は、自賠法三条に基づき、本件事故による損害を賠償する責任を負い、両名の負担する右債務は連帯債務(民法七一九条)の関係にある。

4  原告らの地位

原告小枝幹寛(以下「原告幹寛」という)は原告弘明の父、原告小枝豊子(以下「原告豊子」という)は原告弘明の母である。

5  既仏い

原告弘明は、本件事故の損害賠償として、三四二一万三三五三円の支払いを受けた。

三  争点

1  好意同乗減額

(一) 被告らの主張

本件事故は、高校時代の同級生である若年者約一〇名が、車両三台で深夜の長時間のドライブに出かけた際に生じたものであつて、原告弘明は、運転者の被告将司が現場付近の地理に不案内であることや免許取得後日が浅く、その運転技術が未熟であることを十分に知つていたし、そうでないとしても知り得る状況にあつた。したがつて、公平の見地から、賠償額を三割減額すべきである。

(二) 原告らの主張

原告弘明が、被告車両に同乗したのは、被告将司が強く勧めたからであつて、原告弘明に帰責事由はない。したがつて、好意同乗減額をすべきでない。

2  因果関係

(一) 原告らの主張

原告弘明は、本件事故により意識知覚不明の、いわゆる植物状態となつた。

被告らは、右症状は医療過誤により生じたと主張するところ、医療過誤は存在しない。仮に、何らかの医療過誤があつたとしても、本件事故によつて、既に重篤な症状となつた原告弘明を、高度な医療技術を施して治療していた過程で生じたものであるから、医療過誤のあることが、一見明白で、その損害賠償請求が容易である等の例外的場合を除き、交通事故の加害者と医師とは、共同不法行為者として、原告弘明に連帯責任を負うべきであつて、右加害者の責任の範囲が限定されるものではない。

(二) 被告らの主張

原告弘明は、本件事故によつて右前頭部硬膜外血腫等の傷害を負つたが、治療を受け、良好な経過をたどつていたところ、<1>春名病院における平成二年一二月一二日の二度の手術の際、担当医が誤つて原告弘明の脳実質を損傷して、硬膜下血腫を引き起こし、<2>天理よろづ相談所病院の担当医は、同三年二月六日の手術後の、未だ安静を必要とする時期の同月一二日に、リハビリを開始した過失により、同月一八日、原告弘明を肺塞栓によるシヨツク状態に陥らせたものであつて、これらの重大な医療過誤により、その後の症状の急激な悪化と、予想外の後遺障害の拡大をきたしたのであるから、現在の重篤な症状は、通常予想される範囲を逸脱しており、本件事故との間に相当因果関係はない。また、仮に、因果関係があるとしても、右医療過誤の存在を考慮すると、公平の原理ないし寄与度の法理に照らし、被告らが負担すべき損害は、相当程度に限定されるべきである。

3  損害額

(原告らの主張)

別紙(一)のとおり

第三争点に対する判断

一  好意同乗減額(争点1)

1  前記の事故態様に、証拠(甲二、乙一の1ないし6、原告幹寛、原告豊子)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

本件事故現場は、片側一車線の北東(奈良阪町方面)から南(内侍原町方面)にカーブしている道路であり、右道路はアスフアルト舗装され、路面は平坦であつて、本件事故当時乾燥していた。最高速度は時速四〇キロメートルに規制され、追越しのための右側部分はみだしは禁じられていた。本件事故現場付近は市街地であつて、交通は閑散であり、南側に一〇〇分の三の下り勾配となつており、本件事故当時は早朝のため、暗く、北東方向から南方向への見通しは悪かつた。

原告弘明(昭和四六年一〇月三〇日生)は、本件事故当時健康な関西学院大学の男子学生で、運転免許はなかつたところ、高校時代の同級生の三井が奈良市法蓮町に帰省したため、平成二年九月一六日午後一一時過ぎ頃、同人宅に出かけた。被告将治を含む同様の友人九名も三井宅に集まり、雑談していたが、午前四時頃、帰宅した二名を除く九名でドライブすることになり、被告将治の運転する被告車両と川畑が運転する普通乗用自動車(川畑車両)で出かけた。四名が川畑車両に同乗し、原告弘明外二名が被告車両に同乗した。原告弘明は、被告車両の運転席後部に、一名がその左に、一名が助手席に同乗した。川畑車両を先頭にして、近鉄高の原駅方面に行き、その南側ロータリーで話した後、三井宅へ帰ることとなり、出発したが、程なく、被告将治は川畑車両を見失つた。被告車両は、時速八、九十キロメートルで走行していたため、助手席に同乗していた百田が速度を落とすように注意したところ、被告将治は、一旦速度を落としたものの、再び、八、九十キロメートルに加速し、本件事故現場の手前のカーブ個所で少し減速して、左に曲がつたところ、対向車線にはみ出しそうになり、ハンドル操作を誤つたため、被告車両は右に振れ、歩道の縁石を越えて、道路の下に落ちた。被告将治が運転免許を取得したのは、本件事故の約一か月半前であつて、原告弘明は右事実を知つていた。

なお、原告幹寛、同豊子は、原告弘明は、当初、川畑車両に同乗しようとしたが、前記のとおり、既に四名が同乗していたため、やむなく被告車両に同乗することになつた旨供述する。

2  右認定の事実によれば、原告弘明は、本件事故当時、被告将治の運転免許取得が約一か月半前であることを知つていたから、同人の運転技術が未熟であることを承知していたと考えられること、雑談をしてほぼ徹夜の状態で時間を過ごした後の早朝の運転であるため、疲労運転の可能性が高いと知りながら同乗したと推認できること、本件事故当時高速度で運転していたことを容易に知り得たのに、特に速度を落とすように言わず、ドライブを楽しんでいたこと等に照らすと、被告車両に同乗するに至つた経緯が原告幹寛らが供述するとおりであつたとしても、原告弘明において、積極的に危険運転を助長したとまではいえないまでも、ある程度危険な運転を放置、容認して、その利益を得ていたものといわざるを得ない。そうすると、公平の見地から損害を相当程度減額すべきである。そして、その割合は一割五分が相当である。

二  因果関係(争点2)

1  本件事故後の原告弘明の症状

証拠(甲三、四、六、三七、乙二ないし四、検甲一ないし一六、検乙一ないし三、原告幹寛、原告豊子)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

原告弘明は、本件事故により、右前頭部硬膜外血腫、右前頭骨骨折、右前頭蓋底骨折、右肺挫傷、右第二、第三肋骨骨折の傷害を負い、平成二年九月一七日午前五時二五分昏迷状態で春名病院に入院し、その後瞳孔が不同となつたため、午後一時頃から、開頭して、右前頭部の急性硬膜外血腫を除去し、切除骨弁を取り除き、外減圧をする手術を受けた。当初の診断では、約三か月の入院加療の見込みとされた。翌一八日意識は明瞭で、CTでは脳浮腫のみで、血腫は認められず、同月一九日応答は十分で、手足の運動も良好であつた。同月二〇日、血腫除去が確認された。同年一〇月一七日、頭蓋骨形成術を受けた。その後の経過は一応順調で、かろうじて、自力での歩行、食事、排尿、排便も可能となり、外出や外泊もできるようになつた。同月二七日と同年一二月五日のCTで、担当医の春名医師は、左硬膜下水腫を認めたが、放置しておけば、やがて吸収されるであろうと判断し、経過を観察していた。同月一〇日頃、原告弘明が頭頂部の動悸、頭痛を訴えたため、同月一二日午前九時五五分からCTを施行したところ、右の水腫が血腫となり、大きくなつている(左漫性硬膜下血腫の急性増悪)と認められた。そこで、春名医師らは、同日午後二時二六分頃から、全身麻酔で穿頭術及び血腫除去術を施したが、術後のCTで、左前頭部に急性硬膜下血腫の形成が認められた。病室に一旦帰室した午後四時三〇分には意識清明であつたのに、午後六時三〇分頃には意識レベルが落ち、瞳孔不同が認められたので、午後七時二五分頃から開頭して、左硬膜下血腫を除去し、左外減圧をする手術が実施された。翌一三日意識レベルは改善したが、右半身麻痺が疑われ始め、その後右片麻痺と失語症が認められるようになつた。春名医師は、平成三年一月二五日には、頭蓋形成術後にリハビリを開始することを決め、同月三一日に同手術を予定した。

なお、原告豊子は、これより先の平成二年一〇月四日、より設備の整つた天理よろづ相談所病院で原告弘明の病状を説明し、同年一二月六日には、同原告も同病院の外来で診察を受け、その後も原告豊子が同病院に赴いて、転院希望を伝えていた。

そして、原告弘明は、被告将治の母の勧めもあつて、平成三年一月三一日、春名病院を退院して、天理よろづ相談所病院に入院した。その際、失語症、右片麻痺は読いたままであつた。同年二月六日、頭蓋形成術、硬膜下腹腔短絡術を受けた。同月一八日、リハビリ開始直後強直性けいれんを起こし、シヨツク状態、呼吸不全となり、肺塞栓と診断され、翌一九日、大脳の諸所に低呼吸域を認め、手術準備中のところ、突然心停止し、呼吸停止となつたが、開胸手術により、肺動脈の血栓が除去され、蘇生したものの、遷延的意識障害と四肢麻痺が読き、植物状態となつた。その後の治療によつても植物状態からは脱せず、同年七月一二日、同月三日に症状が固定した旨診断され、平成四年七月一一日退院した。

その後も、症状に変化はなく、自宅で寝たきりの状態で、排泄はおむつによつて処理している。その日常は、午前七時半頃から約二時間かけて、胃に通している管により流動食を摂取し、その後身体の清拭をされ、午後には、約一時間かけて、右同様に管により野菜ジユースを摂取し、その後一時間半程、手足を伸ばしたり縮めたりするリハビリを受け、午後五時過ぎ頃から、同様に流動食を摂取し、歯磨きをし、顔を拭いてもらつて、午後一〇時頃寝る。また、床ずれ防止のため、昼夜を通じ、二時間に一度、体位を変換されている。また、時に車椅子に乗せられ、日光浴している。これらの介護には、主に母の原告豊子があたつているが、職業付添人によることもあり、姉敬依子、妹玲子や父の原告幹寛が手伝うこともある。

また、ほぼ一週間に一度、業者による入浴サービスを受け、一か月に二回、天理よろづ相談所病院に通院して、抗けいれん剤、脳代謝を促進する薬、肺炎の予防のための抗生剤、食塩、胃潰瘍の薬を投与されているほか、週に一度ボバース記念病院に通い、リハビリを受けている。

2  当裁判所の判断

交通事故によつて傷害を負い、その治療中に、何らかの医療過誤があり、両原因が競合して障害が発生した場合には、右障害が交通事故で負つた傷害からは通常予想できないものである場合を除いて、交通事故と右障害との間に相当因果関係があるというべきである。ところで、原告弘明は、前記のとおり、本件事故によつて、右前頭部硬膜外血腫、右前頭骨骨折、右前頭蓋底骨折の傷害を負つたこと、後に生じた左前頭部硬膜下血腫も本件事故による衝撃によつて発生したと推認できること、そして、乙四及び弁論の全趣旨によれば、こうした場合には、まず、穿頭術を施して血腫の除去に努め、効を奏しない場合には、開頭術を施して血腫を除去するのが通常であり、右過程で、急性硬膜下血腫が生じることは予見可能と認められること、さらに、原告弘明は、前記のとおり、天理よろづ相談所病院でのリハビリの際に、肺塞栓となつたが、肺塞栓は、長期横臥によつて下肢の静脈にできた血栓や、外傷、手術によつてできた血栓、脂肪等の塊等が肺に運ばれ、肺動脈に詰まる病気であるところ、前記のとおり、本件事故により、原告弘明は、右肺挫傷、右第二、第三肋骨骨折の傷害を負い、頭部の手術を受けて、相当期間の横臥を余儀なくされていたことに照らすと、肺塞栓が起こる可能性はあつたというべきである。したがつて、仮に、前記穿頭術及び開頭術に際し、被告ら主張の医療過誤が生じたり、右リハビリ選定の時期に関し、被告ら主張の医療過誤があつたとしても、本件事故と原告弘明の障害との間には相当因果関係があると言わざるを得ないから、被告らは全損害を賠償すべきである。

なお、被告らは、相当因果関係があつても、医療過誤による寄与度に応じて損害額を限定すべき旨主張するが、交通事故の加害者と医療過誤をした医師とは被害者に対して連帯責任を負うと解されるので、被告らの右主張は失当である。

三  原告弘明の損害(円未満切り捨て)

1  治療費 五二九万一七五〇円

平成二年九月一七日から同三年六月三〇日までに、四一二万三四〇〇円の治療費を要したことは当事者間に争いがない。

証拠(甲八の1ないし15、二四)によれば、原告弘明は、天理よろづ相談所病院に入院中の同年七月一日から同四年六月一五日までに、一一四万〇四七〇円の治療費を要したと認められるところ、前記認定の原告弘明の症状に照らすと、平成三年七月三日の症状固定後も治療を継読する必要があつたと推認できるから、右費用は、相当な治療費と認められる。

証拠(甲一三の1ないし6、9ないし17、原告豊子)によれば、原告弘明は、平成四年七月二四日から同五年一一月一一日まで枚岡病院やボバース記念病院に通院し、前記の流動食等を摂取する管の費用や薬を右管に入れるための注射器の費用、文書料として、二万七八八〇円を要したと認められるところ、前記の症状からすると、右費用は、相当なものと認められる。

なお、原告弘明は他に枚岡病院の入院費用九万円余(甲一三の7、8)を請求するところ、原告幹寛によると、右は肺炎のため入院した際の費用と認められるので、本件事故との相当因果関係は認められない。したがつて、合計は右のとおりとなる。

2  栄養剤 否定

証拠(甲二五の1、2、原告幹寛)及び弁論の全趣旨によれば、前記流動食を購入する費用として、月額二万五七五〇円を要していることが認められるものの、右費用は、その額に照らしても、健常者の食費に相当すると認められるので、本件事故による損害とはいえない(将来分についても、逸失利益算定に際し、生活費控除をしないから、損害とはいえない。)。

3  治療器具、介護用物品費 三二六万四九三二円

(一) 既発生分(別紙(一)[1]3(1)) 三〇一万九三四〇円

(1) 肯定分

証拠(後記摘示分、原告幹寛、原告豊子)及び弁論の全趣旨によれば、前記後遺障害に基づく支障を防止したり、生活上の不便を補うために必要な、後記の物品を後記代金で購入したと認められ、右額(但し、<5>の自動車については後記一部)は本件事故と相当因果関係のある損害ということができる。

<1> カテリープ(同<3>) 二万三八九六円(甲一四の1、5、8)

後記のイルリガードルを固定するためや入浴の際に、切開した気管を塞ぐ際に用いる医療用テープ

<2> 防水シーツ(同<3>) 三〇九〇円(甲一四の2)

おしめからの漏れが敷布団に染みないようにするシーツ

<3> 介護支援ベツド、フアイバーフアツシヨンマツトレス、差込み式サイドレール、廻診車、ハンデイスロープ、ミニスロープ、イルリガードルスタンド(同<4>) 三七万一八五四円(甲一九の1ないし3、検甲七)

原告弘明が日常仰臥しているベツドとその付属品及び後記のイルリガードルを立てるスタンド

<4> シヤワー椅子購入費、レンタル代(同<5>、<10>) 九万五三〇〇円(甲二一の1ないし3、二八)

原告弘明をベツドから浴室に移動させ、そのままシヤワーを浴びることができる椅子

前記のとおり、同原告はその症状に照らし、入浴サービスを受ける週一度を除いては、入浴ができないため、右椅子は必要と認められ、購入までの間はレンタルし、その後購入したため、右合計が損害と認められる、。

<5> 移動用自動車(同<7>) 二五〇万円(甲一二の1、2、二三の1、4、検甲一三ないし一五)

原告弘明の通院のために必要であるところ、その購入価格三八九万五六八四円のうち、障害者用に改造した費用一三八万円を含む二五〇万円をもつて本件事故と相当因果関係があると認める。

<6> イルリガードル(同<8>) 二万五二〇〇円(検甲七)

流動食を点滴するための容器及び管

原告弘明の退院後平成六年一〇月三一日までに、右購入費二万五二〇〇円を要したことは当事者間に争いがなく、右費用は同原告の介護のために必要と認められる。

(2) 否定分

<1> 車椅子用車輪カバー、シヤワーキヤリー用安全ベルト(同<3>)は、証拠(甲一四の4、6、原告豊子)及び弁論の全趣旨によれば、原告弘明の介護に必要な物品であり、これを購入したことが認められるので、右購入費用は本件事故と相当因果関係があると認められるものの、本件全証拠によつても、右額を特定するに足りないから、慰謝料で考慮する。

<2> 磁気マツト布団(同<1>)、磁気バイオビユーム(同<2>)、加湿器・吸引器(同<9>)、テイルトテーブル(同<11>)、エアマツト(同<12>)、イトーレーター(同<13>)、光線治療器(同<14>)、ロホクツシヨン(同<15>)

原告弘明の治療、介護に有効であると考えられないではないものの、医師がこれらの使用を指示したことを認めるに足る証拠はないので、右購入費用と本件事故との相当因果関係は認められない。

<3> ムートンベツドパツト、車椅子用レインコート、爪切り、よもぎボデイーソープ、よもぎリンスインシヤンプー(同<3>)、ムートンブーツ(同<6>)

車埼子用レインコートについては、原告弘明の雨天時の外出頻度は、前記症状に照らし、高くないと認められるので、右費用は、本件事故と相当因果関係のある損害とはいえない。他の物品については、その性質上、相当因果関係を認めることはできない。

(二) 将来発生分(別紙(一)[1]3(2)) 二四万五五九二円

(1) 肯定分(イルリガードル)(平成六年一一月一日以降)(同<3>) 二四万五五九二円

前記のとおり、必要性が認められるところ、甲三六及び弁論の全趣旨によれば、単価四五〇円で、一か月に二個使用することが認められるので、平成六年一一月一日(原告弘明二三歳)から平均余命の七七歳までの費用の本件事故時の現価は、ホフマン式計算法により年五分の中間利息を控除して算出すると、左のとおりとなる。

450×2×12×(27.104-4.364)=245.592

(2) 否定分

車椅子(同<1>)及び座椅子(同<2>)については、必要性は認められるが、右購入費用及び自己負担額がどの程度であるかについての立証がないから、慰謝料で考慮する。

4  交通費 九九万二九三二円

(一) 既発生分 二九万〇九九〇円

被告既払分一九万七六三〇円は、当事者間に争いがなく、証拠(甲二三の1、二九の1、2)及び弁論の全趣旨によれば、平成五年四月に前記移動用車両を購入するまでのタクシー代として、九万三三六〇円を要したことが認められる。

原告弘明は、天理よろづ相談所病院で投薬を受取るために、平成六年一月三一日までに高速道路代一四万四九〇〇円を要した旨主張するところ、平成四年七月一一日の退院後、右車両購入までは、前記のとおりタクシーで通院したというのであるから、車両購入後の高速道路代を損害と認めるのが相当である。そして、前記のとおり、原告弘明は、車両購入後も、月二回天理よろづ相談所病院へ通院して、投薬を受けており、甲三〇の1、2及び弁論の全趣旨によると、右通院後には、一往復一二〇〇円の高速代を要していることが認められるから、右費用については、将来分として次の(二)で評価する。

(二) 平成五年四月以降分 七〇万一九四二円

前記のとおり、平成五年四月(原告弘明二一歳)以降平均余命の七七歳までの五六年間、前記程度の通院交通費が必要と認められるから、右費用の本件事故時の現価は、前同様に中間利息を控除して算出すると、左のとおりとなる。

1,200×2×12×(27.104-2.731)=701,942

5  付添看護費 六四二〇万七六三九円

(一) 既発生分(平成二年一二月一七日から同五年五月一二日まで) 八〇二万七八七四円

平成二年一二月一七日から同三年五月二〇日までに付添看護費用二五八万〇三六一円分を要したことは当事者間に争いがない。

証拠(甲九の1ないし9、一七の1ないし8、二六、三七、原告幹寛、原告豊子)によると、原告弘明は、平成三年五月二一日から同三一日まで、同年七月一日から同四年七月一一日までの毎日(詳細な支払い明細書がないため特定できないが、各領収書記載の領収日及び額から推認できる。)、同五年一月一七日から同年二月三日までの間及び同年四月二八日から同年五月一二日までの間、職業付添人の看護を受け、その費用として合計五四四万七五一三円を要したことが認められる。

(二) 将来発生分(平成五年五月一三日以降) 五六一七万九七六五円

前記症状、看護の状況に照らすと、原告弘明は、平成五年五月一三日(原告弘明二一歳)以降も、平均余命の七七歳まで、常に看護が必要であり、うち、週一日半程度の年八〇日は職業付添婦の看護を要し、その余は家族による看護が相当であると認められるところ、職業付添費日額は、前記支払い済みの額に照らし、少なくとも原告ら主張の一万一〇〇〇円と認められ、家族付添費は日額五〇〇〇円と認めるのが相当であるから、前同様に中間利息を控除して、本件事故時の現価を算出すると、左のとおりとなる。

(11,000×80+5,000×285×(27.104-2.731)=56,179,765

6  雑費(入院雑費を含む。) 五二二万〇八一四円

(一) 既発生分(平成六年一〇月三一日まで) 一二六万四〇五四円

(1) おしめ 二九万〇二七四円

前記症状、証拠(甲一八の1、3ないし6、原告豊子)及び弁論の全趣旨によると、原告弘明は、退院後の平成四年七月一二日から平成六年一〇月三一日まで、おしめを要し、一箱当たり五二五円のものを一か月に二〇箱消費したと認められるので、右費用は左のとおりとなる。

525×20×(20÷31+27)=290,274

(2) 綿棒 一一万〇五八〇円

前記症状、証拠(甲一八の1ないし5、検甲四、八)及び弁論の全趣旨によると、原告弘明は、退院後の平成四年七月一二日から平成六年一〇月三一日まで、口内掃除等のため綿棒を要し、一箱当たり四〇〇〇円のものを一か月に一箱消費したと認められるので、左のとおりとなる。

4,000×(20÷31+27)=110,580

(3) 入院雑費 八六万三二〇〇円

前記のとおり、原告弘明は、本件事故に基づく傷害によつて、平成二年九月一七日から同四年七月一一日までの六六四日間入院したところ、入院期間は比較的長期ではあるが、右のおしめや綿棒を要したことや前記症状等に照らすと、一日当たり一三〇〇円の雑費を要したと認めるのが相当であるから、左のとおりとなる。

1,300×664=863,200

(二) 将来発生分(平成六年一一月一日以降) 三九五万六七六〇円

前記のとおり、おしめ、綿棒とも、必要であり、平成六年一一月一日(原告弘明二三歳)以降平均余命の七七歳まで、前記と同様の量を要すると認められるから、右費用の本件事故時の現価は、前同様に中間利息を控除して算出すると、左のとおりとなる。

(1) おしめ 二八六万五二四〇円

525×20×12×(27.104-4.364)=2,865,240

2 綿棒 一〇九万一五二〇円

4,000×12×(27.104-4.364)=1,091,520

7 後遺障害逸失利益 六六六八万八八六六円

原告弘明は、前記のとおり、本件事故当時一八歳の大学一年生であつたから、二二歳から稼働年齢である六七歳まで、少なくとも原告弘明主張の平成四年賃金センサス第一巻第一表の産業計、企業規摸計男子労働者大卒二〇歳ないし二四歳の年間平均賃金である三一九万八二〇〇円を得る蓋然性が認められるところ、前記障害によつて、労働能力を一〇〇パーセント喪失したと認められるから、前同様に中間利息を控除して、本件事故時の現価を求めると、左のとおりとなる。

3,198,200×(24.416-3.564)=66,688,866

8 慰藉料 二三五〇万円

前記入通院期間、症状及び後遺障害の内容、慰藉料で考慮するとした前記3〔一〕〔2〕<1>、〔二〕〔2〕の事情、原告幹寛、同豊子についても慰藉料が認められること等本件に顕れた一切の事情を総合して勘案すると、入通院慰藉料は三五〇万円、後遺障害慰藉料は二〇〇〇万円が相当である。

9 特別損害 六九二万七九五〇円

(一) 既発生自宅改造費 一四四万九〇〇〇円

証拠(甲二〇の3ないし6、検甲一三ないし一六、原告幹寛)によると、退院に際し、原告弘明の病室とするため自宅一階の応接間の床を板張りに改造し、その後、前記の移動用自動車を自宅玄関に横付けできるように自宅の前庭を改造し、合計一四四万九〇〇〇円を要したことが認められ、右費用は本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。

なお、原告弘明は、他に、クーラーとその設置費用等を主張するが、右費用は、その性質上、本件事故と相当因果関係のある損害とはいえない。

(二) 既発生入浴費 四七万八九五〇円

前記のとおり、原告弘明は退院後、ほぼ一週間に一度の割合で入浴サービスを受け、証拠(甲一五の1ないし8、10ないし15、一六の1ないし17、原告幹寛、原告豊子)によると、同原告の主張する平成六年一一月までに、右費用合計四七万八九五〇円を要したことが認められる。

(三) 将来の自宅改造費 五〇〇万円

証拠(甲一一の1、2、原告幹寛)によると、原告弘明を看護するため、家屋を改造して、同原告の居室を一階応接間から二階に移し、看護用浴室や看護用リフトを設け、療養ベツド等の介護用器具を整える費用等として、一三七〇万円を要する旨の見積りが出されていることが認められる。しかしながら、同原告の居室を二階に移す必要性は認められないうえに、右見積額の中には、同人が使用できるとは考えにくいキツチンシステムや洗面化粧台の設置費用も含まれていること等を考慮すると、自宅改造費としては、前記見積費用中、看護用浴室や看護用リフトを設置し、応接間以外の一階の居室を同人の居室に改造する費用とこれに付帯する諸費用に相当すると考えられる五〇〇万円をもつて相当と認める。

なお、原告弘明は、自宅改造費用一三七〇万円が認められなければ、将来の入浴費用九六六万七四九八円を請求する旨主張するところ、右のとおりの自宅改造費をもつて、同原告は自宅で入浴できることになつて、入浴サービスの費用は不要となるから、同原告の右主張は容れることができない。

10 損害合計 一億七六〇九万四八八三円

11 好意同乗減額後の損害 一億四九六八万〇六五〇円

12 既払い控除後の損害 一億一五四六万七二九七円

13 弁護士費用 七〇〇万円

本件事案の内容等一切の事情を考慮すると、右額が相当である。

14 損害合計 一億二二四六万七二九七円

四  原告幹寛及び原告豊子の損害

1  原告豊子の休業損害(近親者付添費) 七二万六〇〇〇円

原告弘明の前記症状及び証拠(甲三七、原告幹寛、原告豊子)によれば、原告弘明は、本件事故当日から付添看護を要する症状であり、原告豊子は、同日から付添看護をしたことが認められ、前記のとおり、平成二年一二月一七日から同三年五月三一日までと同年七月一日から退院の同四年七月一一日までの間は、職業付添人が付き添つていたところ、この間、重複看護が必要であつたことの立証はないから、平成二年九月一七日から同二年一二月一六日までの九一日と、同三年六月一日から三〇日までの三〇日の計一二一日につき、原告豊子の休業損害(近親者付添費)が認められる。そして、その額は、弁論の全趣旨により、一日当たり六〇〇〇円が相当と認められるから、左のとおりとなる。

6,000×121=726,000

2  原告幹寛の固有の慰藉料 二五〇万円

原告豊子の固有の慰藉料 三〇〇万円

原告幹寛及び原告豊子と原告弘明の関係、前記後遺障害の内容、原告豊子は退院後も原告弘明の看護を続けたこと等本件に顕れた一切の事情を総合して勘案すると、右額が相当である。

3  損害の合計 原告幹寛 二五〇万円、原告豊子 三七二万六〇〇〇円

4  過失相殺後の損害 原告幹寛 二一二万五〇〇〇円、原告豊子 三一六万七一〇〇円

5  弁護士費用 原告幹寛 二〇万円、原告豊子 三〇万円

本件事案の内容等一切の事情を考慮すると、それぞれ、右額が相当である。

6  損害合計 原告幹寛 二三二万五〇〇〇円、原告豊子 三四六万七一〇〇円

六  結語

よつて、原告らの被告らに対する請求は、原告弘明につき一億二二四六万七二九七円、原告幹寛につき二三二万五〇〇〇円、原告豊子につき三四六万七一〇〇円及び右各金員中の弁護士費用を除いた主文掲記の各金員に対する不法行為の日である平成二年九月一七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由がある。

(裁判官 下方元子 水野有子 宇井竜夫)

別紙(一) 原告ら主張損害

[1] 原告弘明分

1 治療費 549万1,320円

(1) H2年9月17日から同年6月30日まで 412万3,400円

(2) H3年7月1日からH4年1月31日まで 75万3,580円

(3) H4年2月1日から同年6月15日まで 38万6,890円

(4) H4年7月24日からH5年11月11日まで 22万7,450円

2 栄養剤 872万5,748円

(1) 既発生分(H4年7月12日からH6年10月30日まで) 66万9,500円

(2) 将来発生分 805万6,248円(5,150×5×12×26.072)

3 治療器具、介護用物品費等 669万3,724円

(1) 既発生分 611万2,146円

<1> 磁器マツト布団 15万8,100円

<2> 磁器バイオビユーム 21万6,300円

<3> カテリープ、防水シーツ、ムートンベツドパツト、車椅子用レインコート、車椅子用車輪カバー、爪切り、シヤワーキヤリー用安全ベルト、ヨモギボデイソープ、ヨモギリンスインシヤンプー 9万5,635円

<4> 介護支援ベツド外治療用品 37万1,854円

<5> シヤワー椅子 8万5,000円

<6> ムートンブーツ 3万3,990円

<7> 移動用自動車 409万1,634円

<8> イルリガードル(H6年10月31日まで) 2万5,200円

<9> 加湿器・吸引器 3万0,376円

<10> シヤワー椅子レンタル代 1万0,300円

<11> テイルトテーブル 56万0,320円

<12> エアマツト 5万1,500円

<13> イトーレーター 22万4,540円

<14> 光線治療器他 10万5,485円

<15> ロホクツシヨン 5万1,912円

(2) 将来発生分 58万1,578円

<1> 車椅子 20万円

<2> 座椅子 10万円

<3> イルリガードル(H6年11月1日から55年間)

28万1,578円(450×2×12×26.072)

4 交通費 118万6,764円

(1) 既発生分 43万5,890円

<1> 被告既払分 19万7,630円

<2> 移動用車両を購入するまでのタクシー代 9万3,360円

<3> 天理よろづ病院へ投薬受取のための高速代(H6年10月31日まで)14万4,900円

(2) 将来発生分(H6年11月1日から55年間)

75万0,874円(1,200円×2×12×26.072)

5 付添看護婦 7,748万3,682円

(1) 既発生分 802万7,874円

<1> (H2年12月17日からH3年5月20日まで) 258万0,361円

<2> (H3年5月21日からH5年5月12日まで) 544万7,513円

(2) 将来発生分 6,945万5,808円

<1> 職業付添婦 4,129万8,048円(1万1,000×12×12×26.072)

<2> 近親者付添看護 2,815万7,760円(5,000×18×12×26.072)

6 雑費(入院雑費を含む。) 580万5,728円

(1) 既発生分 126万9,200円

<1> おしめ(H4年7月1日からH6年10月31日まで)

29万4,000円(525×20×28)

<2> 綿棒(H4年7月1日からH6年10月31日まで)

11万2,000円(4,000×1×28)

<3> 入院雑費(H2年9月17日からH4年7月11日まで)

86万3,200円(1,300×664)

(2) 将来発生分(平成6年11月1日以降) 453万6,528円

<1> おしめ 328万5,072円(525×20×12×26.072)

<2> 綿棒 125万1,456円(4,000×12×26.072)

7 後遺障害逸失利益 7,429万7,384円(319万8,200×23.231)

8 慰籍料 3,400万円

(1) 入院慰謝料 400万円

(2) 後遺障害慰謝料 3,000万円

9 特別損害 主位的 1,593万8,950円、予備的 1,190万6,448円

(1) 既発生自宅改造費 176万円

<1> クーラー等設置 31万1,000円

<2> 玄関改造費 133万9,000円

<3> 室内改装 11万円

(2) 既発生入浴費 47万8,950円(H4年7月15日からH6年11月まで)(1万5,450×31)

(3) 将来分

<1> 主位的 将来自宅改造費 1,370万円

<2> 予備的 将来入浴費 966万7,498円(1万5450×2×12×26.072)

10 弁護士費用 1,000万円

[2] 原告豊子、原告幹寛分

1 原告豊子休業損害(H2年9月17日からH4年7月11日まで)

543万6,582円(427万5,700円÷365×663×0.7)

2 原告豊子、原告幹寛慰謝料 各500万円

3 弁護士費用 各50万円

別紙(二) 裁判所認定損害額

[1] 原告弘明分

1 治療費 529万1,750円

2 栄養剤 否定

3 治療器具、介護用物品等 326万4,932円

4 交通費 99万2,932円

5 付添看護費 6,420万7,639円

6 雑費(入院雑費を含む。) 522万0,814円

7 後遺障障害逸失利益 6,668万8,866円

8 慰籍料 2,350万円

9 特別損害 692万7,950円

10 損害合計 1億7,609万4,883円

[2] 原告幹寛、原告豊子分

1 原告豊子休業損害 72万6,000円

2 原告幹寛慰謝料 250万円

3 原告豊子慰籍料 300万円

4 損害合計 原告幹寛 250万円

原告豊子 372万6,000円

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